今年も読書感想文の季節がやってきました。
第68回青少年読書感想文全国コンクール(2022年)の課題図書について、ストーリーや楽しく読んで楽しく書くポイントをご紹介します。最後に高等学校の部をどうぞ。
『その扉をたたく音』
ミュージシャンを目指していた宮路は、大学卒業から7年たっても、自分が本当は何になりたいのかわからないままだった。ところが、ボランティアでギターを演奏した老人ホームで介護士・渡部の「神様」のような音と出会う。宮路は、渡部のサックス聞きたさに老人ホームを訪れるようになる。けれども、老人ホームでは病気や死が、より近いところにあって……。
渡部君の言葉で、完全に目が覚めた気がした。俺だけが真ん中にいた世界は、もう終わったんだ。
人生の目的は何か、自分がほしいのは何なのか― 悩みながらも、そこから抜け出せなかった宮路が、渡部やお年寄りとの関わりの中で変わっていく姿は明るくて心地よい。渡部やお年寄りたちの心の動きもていねいに描かれている。やさしい作品だ。
読む&書くを楽しむポイント
- 主人公は大人だけれど、ギターを始めた高校時代も大きな柱のひとつ。進路や人生について考えているときなどにも、ぜひ読んでいただきたい。文章も読みやすいので、普段あまり読書をしない人にもおすすめ。
- 生きること、死ぬこと、自分の好きなこと・嫌いなこと、自分の得意なこと・苦手なこと― さまざまな観点から読むことができる。一番気になったエピソードについて、その理由を書いてみよう。
- 将来の自分について、想像してみるのもよい。
『建築家になりたい君へ』
日本を代表する建築家・隈研吾さんが、10歳で建築家を志してから今までの仕事、これからの生活についてなどについて述べた本。
「退屈で、醜い建築」「(建築は)自然界の材料をどう処理し、人間に心地よい体験をさせるかというゲーム」など、ピリッとした表現が多く、硬めの「説明文」に慣れている人には新鮮に感じられるかもしれない。
インターネットの時代に大切なのは、「ひとつずつ信用を得るように努力をし、それが積み重なるのを辛抱強く待てる」こと、「待つために大事なことは、毎日のコツコツとした積み重ね自体が楽しいということ」など、高校生や他の職業の人でも考えさせられるような発言もある。
読む&書くを楽しむポイント
- 建築に興味がない人でも、「仕事」という観点でおもしろく読める。建築家の仕事、建築に携わるいろいろな仕事についてわかり、建築そのものを見るのが楽しくなるかもしれない。
- 個性や周りの人との関わり方について、関心のある人に。建築家の個性とファッションや「キャラ立ち」についてなども書かれている。
『クジラの骨と僕らの未来』
小さな頃から生きもの好きである著者の中村玄さんが、その「好き」という気持ちをずっと持ち続け、家の前から北極海にまでフィールドを広げ、生きものの専門家になるまでが描かれている。
中学2年生のときに骨格標本を作るために行った、ペットのハムスターの「墓あばき」、高校生でのアルゼンチン留学、南氷洋での調査など、どのエピソードもおもしろい上、文章がユーモラスで、どんどん読める。
自分の大好きなことを、誰にも言っていなかったり、からかわれて嫌な思いをしたりしたことがある人は、将来が楽しみになるかもしれない。
読む&書くを楽しむポイント
- クジラの生態やその研究で、驚いたことは? 科学・環境・政治など、自分の気になるポイントを考えてみよう。
- 進路について考えている人・悩んでいる人には、特におすすめ。学ぶ楽しさが伝わってきて、元気になる。